茜空を抱いて
秘密を教えて
***



夏が近付いた頃、ユウは約束通り、私に勉強を教え始めた。



放課後、私たちは外階段で待ち合わせをしてから街の図書館へ向かうようになった。
狭い自習スペースに身を寄せ、ユウに指定された問題集にかじりつく日々。



「アミ、そこまでやったら一回見せて」

『丸つけすんの?』

「うん。この辺り難しいから少しずつやろう」



腕時計をちらりと確認して、ユウが私のシャーペンを取り上げる。触れそうで触れなかった指先に、胸の奥が苦しくなる。

ユウはどうだったかわからないけれど、私はずっと、横で見守るあなたのことを意識していた。



「……あ、ここ。この公式はうまく使えるようになったね」

『………うん、それはどーも』



赤ペンを走らせながら、小さな声で私を褒めるユウは、素晴らしい先生だった。

素直にお礼すら言えない私にも呆れず、何度間違えても見捨てず、私が理解するまで丁寧に説明を繰り返す。
そんなユウのおかげで、私は苦手な勉強が嫌じゃなくなった。



「………そうだな、ここの問題だけもう一回やってみて。ちょっと惜しいんだ」

『はぁ……わかった、もっかいね』



ユウから受け取ったシャーペンを握り直す。
なんだったっけこれ。なんて思いながらまた問題に向き直る。数字をじっと睨んで、頭を回転させようとしたその時。

不意に、さっきよりもユウとの距離が近いことに気がついてしまう。


一気に上昇する身体の温度。
左耳のすぐ横に迫るあなたの気配に、どくどくと身体中の血が熱くなる。



「アミ?ペン止まってる」

『………ねえユウ』

「ん?」

『………好き、って、どういう気持ち?』



何の前触れもなく、自制心が働く隙もなく、子どもみたいなことを聞いてしまった。
ユウの反応が気になる。だけどとてもじゃないけど、その顔を見ることができない。
ずっと速いままの鼓動は、もしかしてあなたにも聴こえていたのかな。



「………そんなこと考えてないで、まだ解き終わってないでしょ」

『………そーだけど、』

「ほら、進めて」



問題集をトントンと叩くその細い指。
いくらそばに居ても、一向に縮まらない心の距離。掴もうとすれば逃げていく。
数列を今一度睨みつけても、やっぱり集中なんてできっこないのに。


ユウはたまに、とても冷たく見えた。


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