茜空を抱いて
***



人肌の恋しくなる季節。
私たちはすっかり日が暮れてから、その日もまた図書館をあとにする。

ユウは涙を見せたあの日以来、私に少し冷たかった。



「じゃあ帰ろう」

『……ねえ、もう大丈夫なの?』



数歩先を歩くあなたが、私はずっと心配で。
一度も話題にあがらないその涙の理由を、どうしても知りたいと思った。

ユウはどうやら質問の意味を理解したらしく、「あぁ」と呟く。
あまりに覇気のない声で、こちらを振り返りもしない。



「……あの日のことは、忘れておいて」

『そんなの、できないよ。ユウはなんでなんにも教えてくれないの』



あなたを知りたい、ただ知りたい。欲望にひたすらに正直に、あなたに向かって言葉をぶつける。
そんな私は、やっぱりまだまだ子どもだ。


それでもユウは振り向かない。
斜め後ろから睨みつけた背中は、広いのにどこか頼りなかった。



「…………俺のことなんてアミは知らなくていい。話すほどのこともないから」

『……なんでよ、いつもそうやって、』



その時絞り出した私の声は今にも泣きそうで、自分でも驚く。
ユウもその変化を感じ取ったらしく、ゆっくりとついに足を止め、私を振り返った。


視線が交わる。
その瞳は、私の大好きな優しい色をしていた。



「………ごめん」



その時、目を逸らさずにはっきりと謝ったユウ。その一言はあまりに残酷で、思わず奥歯を食いしばる。
泣きたくない。そんな意地と同時に湧き上がったのは、あなたを好きというこの気持ち。
溢れる、もう抑えておけない。



『……ユウ、でも私はユウのこと、』

「アミ」



途端にあなたは、鋭く私を呼ぶ。

言葉は、遮られる。
想いは決して、言わせてもらえない。


それならなんで、優しくしたの。
なんで私の側にずっと居座って、期待させるようなこと言ったの。



『…………なんなの、ユウはずるいよ、最初っから。全部ずるい』



いよいよ日の落ちた暗い街の片隅、あなたの瞳の煌めきも闇に溶けてしまう頃。



「……そうだね。俺、ずるいかも」



冷たく言い放ったユウの表情ですら、夜の中で曖昧にぼやけている。

あなたとの距離は、ずっと縮まらないままだった。


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