茜空を抱いて
春を待つ
***



勉強会は続く。
私たちの関係は何も変化しないまま秋が過ぎ、冬がやってくる。


そして私はユウから教えてもらったたくさんの知識を携え、大学入試本番を乗り越えた。



「アミお疲れ様」

『………うん』



夕方、入試から帰宅し外階段を上がればやっぱりあなたはそこにいる。
となりにゆっくりと腰を下ろした私に、少しだけ微笑む。



「無事に帰って来られてよかった。一安心だね」

『………まだ受かるかわかんないけどね』

「きっと大丈夫だよ、あんなに頑張ったんだから」



ユウも頑張ってくれたけどね。
そんな台詞はまだ、恥ずかしさが邪魔をして言えない。だけどその「大丈夫」は、私に大きな安心感を与えてくれた。

ユウが居たから、私は受験を乗り越えられたんだと思う。




そしてその自覚通り、数週間後、私は第一志望合格を手にした。



『ユウ、私受かった!』



日が沈む頃、踊り場を曲がった瞬間に抑えきれず、小さく叫んでしまう。
そこに座っていたユウは、眼鏡の奥で嬉しそうに目を見開いた。



「本当に?おめでとうアミ!」

『ほんとだよ、超嬉しい』

「よく頑張ってたからね、偉い偉い」



小さく拍手をして、あなたが柔らかく微笑む。
その温和な表情が、私を少しだけ素直にさせた。



『………ユウも、頑張ってたし、』

「そう?それはよかった」



ありがとう、あなたのおかげだよ。なんてはっきりと言えない自分に腹が立つ。
だけどユウは伝わったよ、と言うように静かに頷いてみせた。


そしてその満ち足りた空気は、更に私を大胆にさせる。



『ねえユウ、それでお願いがある』



あなただけをしっかり見つめ、そう切り出した私。
急にひやりとした風が、階段に吹きつけた。



『………私が大学生になったら、私の気持ち、聴いてほしい』



大学生になったら、少しだけあなたに近付ける気がして。もう少し大人になれば、あなたが私と向き合ってくれそうな気がして。

返事を待つ間の数秒間、何か世界が変わることを期待していた。だけど。



「………ごめん、それはできない」



あなたがもう一度、私に微笑むことはなかった。


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