茜空を抱いて
うざったい
***



両親の離婚、家族の分裂。
自分勝手な父親が招いた結末は、当たり前だけど、私の生活にも爪痕を残した。



愛珠(あいみ)、来なさい」

『……あーもう、今行くって』



不安定でヒステリックな母親とふたりきり。
引越してきて最初の週末。隣に挨拶に行くからと、玄関から鋭く私を呼ぶ声。
常にこの調子だから私は、いつからか自分の名前を嫌いになった。



「きちんとしなさい。みっともないわよ」

『………いっつもしてるし』



隣の202号室の前、ため息をついた私を咎める母親。インターホンが、ピンポン、と場違いなほど軽い音で鳴る。
やがて物音がして、内側からドアが開いた。



「あのう、こんにちは。隣に越してきた中橋(なかばし)と申します」



急に高くなった母親の声。
そして薄暗い室内から、ぬ、と出てきたのは、ひょろりとした眼鏡の青年。



一瞬、その眼鏡越しに目が合い、ぎょっとした。



「………あ、ご丁寧にありがとうございます。はじめまして、高村(たかむら)です」



隣人は、私がここへ来た日、同じ夕日を見ていた、あの変な青年だった。


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