茜空を抱いて
愛させて



「びっくりした、本当にアミだ」

『……ユウなの、ほんとに?』

「………うん、俺」



店先で、ただお互いを見つめ続ける私たち。
その褐色の瞳に映る私は、今にも泣き出しそうな顔をしている。
当たり前だ、またあなたに会えたんだから。



「……アミは今、こういうのを売ってるの?」



視線を逸らし、そこに置かれた私のアクセサリーたちにそっと触れるユウ。
その指先が、あまりに愛おしく表面を滑る。



『……うん、作って、売ってる。これは私が自分で作ったの』

「え、本当に?すごいな、もしかしてあの頃のときめくことって、これだったのかな」



あの頃。その言葉にたくさんの記憶が息を吹き返す。
眠っていた想いが、燻っていた気持ちが、みるみるうちに私を満たす。



『………そうだよ。ユウのおかげで私が見つけたときめくこと、これ』

「俺のおかげ、って」

『ユウがたくさん、助けてくれたから』



今なら素直に言える。
私の言葉に、ユウは眼鏡の奥でその瞳を見開いた。
初めて会った日のように、私をまじまじと見つめる。



「………なんだかすごく、頼もしくなったね」



それも全部、あなたのおかげ。
急いでそう口にしようとすると、レジに近付く別のお客が視界に入る。
目の前のユウも、それに気がつき弱々しく微笑んだ。

まるでもう全てを、諦めたかのように。



『……ねえユウ、このあと話せない?』



逃したくない。逃したら絶対にダメだ。
強い確信が、私を突き動かす。
ユウは、そんな私の勢いにまた驚く。
だけどそのうち名刺を取り出し、その裏に何かを書きつけた。



「これ。仕事用の名刺だけど、裏に携帯の番号書いたから」



そうして小さな私たちを繋ぐ紙切れが、この震える手のひらに収まる。


大企業の社名が入った、名刺。
高村優。その上に書かれた振り仮名を見て、私は思わず顔を上げた。



『………これ、ユウの名前?』

「そう。俺の名前、たかむらすぐる」



微かに笑いながら、私にそう告げたユウ。


″俺の名前これ。読める?″

遠い昔の、ユウの発言。
あの時は馬鹿にされたのかと思っていた。
だけどきっと、そうじゃなかった。



困惑したままその名前を凝視していた私の耳に、レジの呼び出し音が捩じ込まれる。
ユウがふわりと、笑った気がした。



「……でも俺、アミにユウって呼ばれるの好きだったよ」

『………なんで、間違ってるのに』

「自分の名前、好きじゃないから」



最後の、冷たい音色の一言。
思わず顔を上げる。あなたと視線が交わる。
茜色の時間を遠くに置いてきてしまったような、暖かさなど微塵も感じられない表情のあなた。



「……ほら、お客さん呼んでるよ」

『………、』

「終わったら連絡して。適当に待ってるから」



そう言ってあっという間に売り場を離れ、建物の外へと出ていくユウの背中。

ちょうど、日の沈みかけたころだった。


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