茜空を抱いて
***



そして数週間後、店先の陳列棚に並んだ私のアクセサリーたち。


レジなどの対応の合間にちらりと見れば、いつだって私の作品の前には、数人のお客がいた。


目を輝かせながら手を伸ばす少女、スーツ姿で細部まで吟味する女性。
デパートの入り口付近の一角だからか、人が流れるようにお店に立ち寄る。
たくさんの人たちに構ってもらえて、アクセサリーたちも嬉しそう。



『いらっしゃいませ』



お決まりの文句を店内に呼びかければ、いつもより軽い声が出る。口角が緩む。
好きなものに囲まれた空間、私の作ったものが世界に飛び立っていく喜び。



しばらくうっとりと夢見心地でいたあと、ふとまた自分の陳列棚に視線を戻す。
するとそこで、スーツの男性がひとりで熱心にアクセサリーを眺めていた。

………男性ひとりって、珍しい。

なんとなく、声をかけた方がいいような気がして。
私はゆっくりと、そのお客に近付いていった。



『……いらっしゃいませ。何かお探しですか?』



私の声に、そっと顔をあげた彼。

スローモーション、視線がこちらを向く。眼鏡越しに目が合う。

彼が目を細めた、その唇が薄く開く。



「………、え、アミ?」



その声、その呼び方。身体中を衝撃が走る。
私のことをアミと呼ぶ、たったひとりの人。



『……もしかして、ユウ、』



記憶の奥の奥に仕舞われていた、大切な名前。
彼がわずかに頷く。
指先が震えた。



目の前に、あなたがいた。


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