とある蛇の話


やっと弟の本心を聞いた故に、心臓を杭で一釘打たれたような痛みが、俺の胸を打つ。




「それは……お前の為を思ってだよ!!アイツと関わってたら、何が起きるか分かんねぇーんだぞ!!」


「だからってーーあの人と共同して陥れようっていう魂胆が見えて、僕は嫌なの!!」




「別に陥れようなんてーーー」




ーーーしてないといえば……嘘になるかもしれねぇ………。



そんな言葉が頭の中を反芻して、喉元から潰れた。



それは認めたくなかったとも言えるし、弟の気持ちを尊重していない証明にもなるからだ。



「なんで……なんでいいかえさないの?」



「うるせぇ……」



こんな胸が締め付けられる様な気持になったのは、いつ頃だろう。



恋をした時に感じるあの酸素不足のような、苦しさではない。



体全身に鉛をつけられた様な、心臓に鋼の漆を塗られて身動きができない、居心地の悪さ。



そこで初めて俺は、責任という言葉を肌身で感じたのかもしれない。





「僕……初めて直接的に、人に救われたって思ったの……有馬兄ちゃんかもしれないからこそ……僕は許せない」




「俺がいるじゃねーか……」


苦し紛れに出た言の葉は、それだった。



まったく自分でも笑えてしまう。



自業自得とも言えるのに、どうして俺はこんなに眉を下げる?


「兄ちゃんは、確かにいろんなことをしてもらってるけれど……僕と本音の会話したことないよね……あんまり」




「それは……バイトが忙しいからだ!!」




「なら、お父さんが亡くなる前日に何があったの?今答えてよ!!」




父さんが亡くなるその日の前日。




俺は偶然にも、呼び出されて父からの助言を受けていたのだ。




ーー家族を守ってくれ。




ーー母さんと、遥の事をよろしくな。



そんな死亡フラグを経ててしまった故か、眠るように苦しむことなく死んだ父さん。




そんな決死の覚悟で、渡されたバトンを目の前にいる健気な弟に安安と話すわけにはいかない。




それは男同士の約束としてもある。



そして、人としての約束ーーでも……でもだ。




ーーこんな対応……俺はいいことをしているのか?




すぐさま否定をしたかったが、どうしていいか分からない。




空中のボールを蹴るような、空回り感覚を全身から蝕んでゆく。




「応えてくれないなら……僕もういい。行くね。悲しいよ……」




しょんぼりした背中にすがるように手を伸ばしたがーーー直ぐに萎れた。



だって、それは弟が正しすぎたから。




こんな有馬に対する対応は絶対的に八つ当たりでしかなく、人として恥じるべき行動だというのを俺は知っていたから。

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