とある蛇の話

「早く運んでー!!真央さん、早く!!」


クラスの1軍と呼ばれるグループのリーダーが指示を出す。



頭の天辺に髪の毛を結ぶポニーテールが特徴的で、真っ赤な口紅が印象的。



「何で私がこんな事をしないと………痛った!!」



派手に転んだ真央ちゃん。



僕は慌てて駆け込んだ。



「大丈夫!?」



「ええ、何とか……って、貴方大丈夫なの?理央くんとは?」




「ちゃんと言いたいことは言えたから、大丈夫」




「私の事……いいんですか?」



「何が?」




「取られるんじゃないかって、心配とか………」



「うーん、ないと言ったら嘘になるかな」



荷物の中から、丸く赤い電球を取り出す。



体育館の中心に堂々と飾られたツリーにそれを付ける。



「ちょっとそこのあんた!!話がある!!」




後ろを振り返ると、リーダーの女の子がいた。



「あんたには、飾りつけ終わったらクラスに近寄らないでくれる?」




突然の発言に、戸惑った。




「……え?どうゆうことなの?真央ちゃんは何もしてないじゃん!!」




「あんたに言ってんのよ!!クラスの邪魔なの!!」



「へぇ……僕って!?え!?何でさ!?」




「さっき喧嘩してたでしょ?あの反動で、怖いもの見たさで近寄ってくる他のクラスの人がいるの!!それにめっちゃ粘着質で悪質な不良がいて、クラス全員困ってんのよ!!」




ステージ前を見ると、同じクラスメイトの男の子たちが水をかけられ逃げ回ってる。




「あんたが来てから、落ちこぼれのクラスに拍車がかかって苦労してるの知らないわけ?」




「ぼ……僕、そんなつもりじゃ……」




「謝ったって、いじめを受けてる思いどうやって拭ってくれるわけ?消えてよ!!」




飾りを投げつけられる。



クリスマスのガラスの破片が、僕の手を切った。



血が滲んで、とっても痛い。




「……ごめんなさい……僕のせいで………」




いてもいられない気持になってしまって、僕はその体育館から逃げ出した。



クラス中の睨む視線が、心をえぐってくるのを守るように、僕は走り去ったのだ。



真央ちゃんが追いかけようとした影さえも見ようともせずに逃げ出したのだから、僕は臆病者だ。




悔しくてやりきれないこの気持ちは、「屈辱」って言うんだって、初めて理解した。



走り去っていた中、肩がぶつかり目先にいたのは、敬斗くん。




「派手に逃げているけど……、どうかしたの?」




その瞳の奥は何処か、この世の黒い部分を濃縮したような悪意が見えた。




それはどうしてなのか、まったく理解できないけれどーーーその核心は僕に逃げろと言っているみたいでーーー。




「ごめんなさい!!」




素早く避けて、誰もいない裏庭に早々と逃げ出した。
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