愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
私は朝コンビニで買ってきたおにぎりなどを出し、谷本さんはお手製のお弁当を広げている。
こうやって二人で食べることもあるし、一人だったり皆でだったり。
ここは女性が群れを作ることを強制しないというのも、とても居心地の良い点だ。
「やっぱり氷の貴公子は人気なのねぇ」
谷本さんがしみじみと彼をそう評しながら話し、私はどう答えるべきか悩んでいた。
「コンサートのチケット、取れなかったの?」
「はい。今日10時に発売開始だったんですけど、まさかもう売り切れなんて」
言いながら肩を落とす。
運命というものがあるのなら、きっと取れるはずと思っていた。
でも取れなかったのだから、やはり運命などは無いのだろう。
「あら、言ってくれれば良かったのに」
「え?」
「今日は凄まじい忙しさじゃなかったから、少しくらいなら時間取れたし。
そういう時は事前に教えて。
必ずしもOKが出せるとは限らないけどね」
明るく笑う谷本さんに救われる気がする。
「うちも彼のインタビュー取れたら良かったけど」
食事をしながらふと呟いた谷本さんの言葉に耳を疑う。
「すみません、インタビューが取れたらって何の話ですか?」
「あ、そっか、篠崎さんには情報来てないかも。
実はレン・ハインリッヒ来日ということで、日本でインタビューが出来ることになったの。
ただ割り当てられているのは指定された一日だけ、それも五社のみ。
テレビ局や出版社とか含めて五社のみだから争奪戦でね」
そんな事になっていることは一切知らなかった。
末端で入社したばかりの私には知らせる必要も無いのだろう。
しかしインタビュー出来るテレビ局とかが羨ましい。
「五社、どこに決まったんですか?」
テレビ局と大手音楽雑誌はきっと入っているだろう。
私の勤めるこの出版社のメイン雑誌「INFINITY」は幅広く話題を扱う。
それこそ化粧品から芸能人まで。
そういうところでは門前払いされていそうだ。