愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
喉が渇いて目を覚ますと部屋はまだ暗い。
レンは初めての私を気遣いながら優しく、愛を注いでくれた。
こういう行為は怖いと思っていたのに、こんなにも幸せだと感じるものだと知った。
デートを重ね、普通ならこういう流れになるのだろう。
でも数ヶ月ぶりに彼と会い、彼への想いは溢れた。
そして彼と肌の熱を交わし、それだけ彼を欲していたことを実感した。
レンは私に腕枕をしてくれて、すぐそばにいることがまだ信じられない。
寝ているレンを起こさないようそっとベッドを抜け出し、何か羽織るものをと暗い部屋で見渡す。
真っ白なレンのシャツが床に落ちているのに気付き、私はそれを借りることにした。
袖を通すと私の手が袖からで無くて驚いた。
これは絶対レンのパンツなんて履いたら裾が、いや、あの細く長い足を考えるとお尻の時点で引っかかりそうな気がする。
そろりと部屋を出ようとしたら、がさっと音がして振り返るとレンが上半身を起こしていた。
「楓?」
降りた前髪をくしゃりと手で掻き上げ、気怠げな声はより低くてゾクッとする。
それは少し前までの行為が呼びよこされるせいかもしれないけれど。
「どうした?」
「喉が渇いちゃって」
「リビングに冷蔵庫がある。
その中のものは好きに飲んで良い。
暗いと危ないしわからないだろうから、明かりをつけて」
「うん。レンもいる?」
「そうだな、ミネラルウォーターを一つ欲しい」
「わかった」
ベッドルームから廊下を通りリビングルームへ。
カーテンをしめていないせいか、外からの明かりで家具がどこにあるかはわかる。
だがお洒落な作りが冷蔵庫を隠しているため、私は近くのライトをつけた。
壁面収納された冷蔵庫を無事見つけ、ミネラルウォーターのペットボトルを二つ取り、ライトを消してベッドルームへ戻った。
レンはベッドで上半身だけ起き上がったまま私を待っていた。
広い肩幅と厚い胸板が隠さず見えて、私は少し目をそらしながらペットボトルを差し出す。
「はい」
「ほら、おいで」
レンが掛け布団を持ち上げ、ベッドの中に入るように私に合図する。
私はシャツを脱ぐか迷ったが、恥ずかしくて羽織ったままベッドに入った。
「ごめんね、シャツ借りて」
「いや構わない。目の保養だ」
「なんかいやらしい、その言い方」
「さっきまでしていたことよりもか?」
恥ずかしくてそっぽを向く私にレンは笑う。
レンがペットボトルをあけ、私のまだ開けていないペットボトルとを交換してくれた。
お礼を言って水を飲むと、とても喉が渇いていたのでかなりの量を一気に飲んでしまった。
「はー、美味しい」
「随分啼いたからな」
「だから言い方!」
「なんだ、さっきまで素直で可愛かったのに」
恥ずかしさを隠すために怒る私を、レンは機嫌良さそうに宥めてくる。
水を飲み終えるとレンは私のペットボトルも取ってベッドサイドのテーブルに置き、私の肩を引き寄せてまたベッドに横たえて腕枕をした。
そしてゆっくりと私の髪を撫でてくれる。
ホッとして眠くなってくるけれど、時間が勿体なくて話をしようと眠気に抗う。