愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
「ねぇ、なんで私のスマホの番号知ってたの?」
一番の謎はこれだった。
するとレンは目を丸くして、くくっ笑い出した。
「気付かなかったのか、俺がしたことに」
「電話番号伝えたっけ?」
「言ったろ?俺がしたことって。
ウィーンで俺の番号を楓のスマホの電話帳に入れておいた。
で、そっちから俺のにかけて番号を把握したんだよ」
「入れておいた?いつ?」
「楓が寝ているときに」
「勝手にスマホを弄ったって事?」
「今のスマホは指紋認証で簡単に開けるからな。
寝ている楓の指を拝借した」
「はぁ?!」
私がびっくりして起き上がろうとしたが、レンの大きな手が私の肩をぐっと掴んで引き寄せられた。
レンの胸元に包まれる。
素肌どうしが密着して、驚きと怒りが急激にしぼんでしまった。
「悪い。
でもそうでもしなければ連絡が取れないからな」
「番号が変わる可能性を考えなかったの」
「ホテルに泊まるとき、確認のためにパスポートを預かっただろ?」
「レンに言われたから渡したけど」
「あれは嘘で、コピーを取っていた。
いざとなればあの情報で探すつもりだったし」
「さっきからとんでもない事ばかりしてたって自供してるんだけど、分かってる?」
私が胸元から顔を上げ睨むと、レンは眉尻を下げて私の頬を撫でた。
「あの時気持ちを伝えても楓は信じていなかったし、楓には考える時間が必要だと思った。
一度手に入れたのに、手放すつもりなんて微塵も無い。
取れる方法はなんだって取っただけだ」
そうは言いながらも、レンはばつが悪そうに目をそらす。
とんでもない事をされたのに、そこまでするほど愛されているのかと思ってしまう。
愛に溺れ理性を無くすとは、良く言ったものだ。
「許してくれるか?」
大型犬が耳を下げたように見えて、私は思わず吹きだした。
「運命じゃ無いでしょ、これじゃ」
「運命だ。
あの時たまたまウィーンの街角で出逢い、またこの東京という場所で再会した。
どんな手段だろうと、それを実行しなければ意味は無い。
現に楓の電話番号は変わっていなかったし、東京にいた。
これを運命以外、なんて言うんだ?」
愛おしそうに私を見つめる青い瞳。
運命と言って私を逃がさないようにする、この人が私も愛おしい。
「もうわかってると思うけれど、あの時に聞かれた答え、改めて言った方が良いかな」
私が言うと、レンは頷く。
「私もレンが大好き」
レンの瞳が潤んでいるように見えたが、抱きしめられてその顔は見えない。
「まだ朝まで時間はある。
さっきは手加減したんだぞ?
今後はもっと俺のペースに付き合って貰わなければならないからな」
身体があっという間に回転し、真上にはレンが口の端を上げて私を見ている。
「え、うそ、でしょ?」
「いいや?
今度はもう少し次のレッスンに進んでみようか」
青ざめる私に、レンは楽しげな声で私に覆い被さった。