愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~

第五章 自分の存在価値


レンはコンサートを終えるまで新宿のこのホテルに滞在する。
私とレンは出来るだけ会う約束をしたけれど、仕事で申請しているインタビューの話はしなかった。
そもそもあの結婚話が出た後、レンは気を遣ってかその話題に触れなかった。
私はその優しさに甘え、自分が簡単に就職したことだけを伝えると、レンに色々聞かせて欲しいと話をねだった。

レンは私がウィーンから離れた後、他の楽団としばらく仕事をしたり、それこそソロのコンサートもあったそうだ。
イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、そしてオーストリア。
主にその当たりの国で活動していたらしい。
そういえば何故初めて日本で演奏することになったのかは聞き忘れてしまった。
それどころではなかったというのが大きいけれど。

会う約束をしたはずなのにお互い見事に時間が合わず、既に一週間が過ぎた。
毎日メッセージのやりとりをしているものの、声が聴けたらラッキーのレベル。
でもレンは日本にいて、会おうと思えば会える。
そう思えば実際会えていなくても仕事をするのも自然とやる気が出て、谷本さんに何かあったのとニヤニヤされた。

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