愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~

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谷本さんといつもコンビを組んでいるカメラマンさんの池田さんの予定も運良く抑えられ、インタビュー当日を迎えていた。

レンには何も言っていない。
向こうも忙しいようで、今日は午前中にオケ合わせ、午後にマスコミ対応とメッセージが来たときには、知らせたいのをうずうずした。
だが私は外で待つ可能性が高いし、レンが嫌な気持ちになるのではという心配もあった。

色々と苦労をしている彼からすると、私がそういう仕事に就いた以上自分のプライベートを売られるのではという心配をしたっておかしくはない。
だからこれが終わったらきちんとレンに説明したい。

「レンの顔アップ無しとは。勇気あるねー」

ここは会社の会議室でも一番小さな部屋。
打ち合わせしていると、カメラマンの池田さんが私にわはは、と笑う。
池田さんはフリーで活動している三十代の気さくでイケメンな男性。
初めての赤ちゃんが生まれたばかりとかで、よく谷本さんに夜泣きでの対応など仕事以外の話をしていると聞いた。
池田さんも気付くようにレンの顔が欲しいところばかりの中で、あえて顔アップ無しを先方に提案したが、そこが評価された点かもしれない。

「どこもアイドルかモデルの扱いですから。
顔アップ無しってところに向こうも食いついてくれたのかと」

私の言葉に池田さんは腕を組んで深く頷く。

「まぁちょっぴりレンの気持ちも僕はわからなく無いよ。
顔が良いって罪だよね」
「で、撮影はあくまでピアノを弾いてるってふりをお願いで進めるから」
「谷本さん冷たい」

前髪を掻き上げポーズを決めた池田さんに、谷本さんは一切見ること無く打ち合わせ用の資料を読みながら進めていて、私は思わずクスッと笑ってしまった。

「篠崎さん」

谷本さんの声はピリッとしている。
私は笑ったことを後悔し、姿勢を正す。

「貴女にも同席して貰うけれど、貴女はレンの関係者に目を配って。
何か周囲が止めて欲しそうな雰囲気を感じたら合図を頂戴。
で、インタビュー十五分、撮影十分、準備撤退時間に四分というとこ。
その時間を計るのもお願いするから、ここはきっちりやりましょう。
池田さんはいつものように良い写真よろしくね」

谷本さんの指示に、池田さんは了解と軽く返す。

「では行きましょうか」

インタビュー時間が急に変わる可能性も考えてかなり早く向かおうと、谷本さんの号令で、私達は荷物をまとめてコンサートホールに向かった。


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