愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~


レンとメッセージのやりとりはしていたが、コンサート前日夜彼から電話がかかってきた。

『今いいか?』
「大丈夫だよ、家だから。
レンは遅くまで仕事だったの?」
『いや俺は明日の本番があるから、早めにホテルに戻っていた。
・・・・・・それで、ミアの事なんだが』

少しレンが言葉を探すように話し出した。
私は緊張が一気に襲ってきて思わず正座をする。

『コンサート二日目、終わった後に楽屋で話す時間を作るそうだ』
「それってレンも同席するって事?」
『あぁ、それが楓と話す条件になった』

未だに彼女にどう話すべきか、言葉がまとまっていない。
だけれど話をする時間を作ってくれたのなら、精一杯自分の気持ちを伝えなくてはミアさんに失礼だ。

「セッティングしてくれてありがとう。
私はレンが問題なければ同席してくれて大丈夫。
だけど話すのはコンサートが終わってからだなんて、本当にミアさんはレンを大切に思っているんだね」

ミアさんは私にレンと別れるように言っても、今回のコンサートを盾に取るようなことはしなかった。
もしも今すぐ別れなければマネージャーから降りると言われたなら、私はきっとレンと別れることを考えなければならなかっただろう。
ここまで支えてきた彼女が直前に抜ければレンを含め関係者は混乱するだろうし、呼んだ側やそれこそマスコミにも嗅ぎつかれた可能性が高い。
けれどそんなことはせずに仕事を全うすることにした彼女を考えると、想いの強さをぶつけられた気がした。

『楓』

レンの低く、柔らかな声が耳に届く。
スマホを耳につけているから、彼の声がすぐ側で聞こえドキリとした。

『俺には楓が必要だ』

また見抜かれていたことに苦笑いしたいのに、きっと今は随分と情けない表情を浮かべているだろう。

「ありがとう」
『どうせ自分には価値がないとか、何が出来るのかとか考えていたんじゃないか?』
「やっぱりレンはエスパーか何かなんじゃない?」

肯定しているような言葉を返したが、くくっと押し笑いが聞こえた。

『言っているだろう、楓はわかりやすいと』
「すみませんね、単純で」
『なら俺の言っている言葉も、もう少し信用してくれても良いんじゃ無いか?』

ぐだぐだ考えず、俺の言葉を受け止めろ。
レンはそう言っている。
何の取り柄も無い私に、レンがそう言ってくれているのだ。
なんて贅沢なことだろう。

「レン、大好き」
『楓は俺に愛しているとは言わないんだよな』

思った事を口にすれば、それでは足りないと不満げな声が聞こえる。
こんな声を聴ける特権を、私は贅沢にももらえる立場にいるのに。
何だか自分の情けなさに泣きそうになってきて、鼻の奥がツンとする。

「今度直接伝えるよ」
『・・・・・・わかった。
だから泣かずに明日、俺のピアノを聞きに来い。
泣くなら腕の中にしろ』

泣きそうなのを我慢しているのはバレてしまった。
最後仕方が無いと言うように彼が笑ったような気がして、私は必死に笑顔を作り彼に楽しみにしていると伝え通話を終えた。

まずは明日。
私は目を閉じてベッドに寄りかかった。


< 76 / 88 >

この作品をシェア

pagetop