愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~

「ここでモーツァルトの結婚式が行われたのは知っているか?」
「確か観光ガイドブックに載ってた。
ここで結婚式なんて最高に贅沢だね」

私達は祭壇の前につき、美しいキリストの描かれた絵を見上げる。
並んでいる沢山のロウソクの明かりが揺らめいて、置かれた彫刻が今にも動き出しそうに見えた。

「なら、ここでやるか?」
「えっ?」
「正式な結婚式は日本でするとしても、ここでドレスを着て写真を撮るくらいなら数日中に出来る。
貸し切るとなると遅い時間になってしまうが、どうだ?」

彼は少し悪戯な笑みを見せて問いかけてきた。
レンと出逢ったこの街で式を挙げられる。
贅沢すぎることだけれど、彼との思い出をまた増やせると思ったらただ嬉しい。

「したい!ここでドレスを着てレンと写真が撮りたい!」
「そう思って既に手配は済ませてある。
俺の選んだドレスを着せるのが楽しみだ」

彼の笑みは周囲の明かりを背負い、神々しいほどに美しい。
そんな彼は沢山の苦しみを背負っている。
これからは私も同じように背負って、彼の心を軽くさせたい。

「私だってレンの格好いい姿、独り占め出来ると思うと嬉しい」

レンは軽く笑い声を上げて横にいる私に向き合う。

「愛している」

低く、甘い声が誰もいない教会で、讃美歌のように降り注ぐ。
長く美しい指が、私に手を差し伸べてられている。

私は涙を浮かべ、彼の胸へと飛び込んだ。

「私も愛してる、レン」
「楓を一生手放さない、覚悟しておけ」

私達は神の前で誓いのキスをした。
でもその誓いは、レンに対してだけの物。

「私だってレンを絶対手放したりしないよ」

サファイアのような青い目は、私を優しく見つめている。

「明日のアンコール、何が聞きたい?」
「私が決めて良いの?
・・・・・・じゃぁワルツが聴きたい。
あの、私だけに聞かせてくれたワルツの曲」
「ウィーンの森の物語、か。
わかった、楓のために愛を奏でよう」

嬉しい、と私は彼に抱きつけば、レンは愛おしそうに私の髪を撫でている。
幸せすぎて、溶けてしまいそうだ。

教会の鐘の音が鳴り響く。
その美しい音色は、私達の選択を祝福しているように聞こえた。

END

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