愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
レンが馴染みの店を予約しているらしい。
せっかくだからとタクシーに乗ることもせず私は一方的に思い出話をし、それをレンが嫌な顔もせずに聞いてくれる。
ふとレンと出逢った場所を通ることになり私は足を止めた。
今日も通りは多くの人が溢れていた。
「ここで初めて出逢ったんだよね。
レンはこの場所自体は覚えていなかったけど」
この通りで私はスリに遭いかけ、そこをレンに助けられた。
次の日レンと運命的な再会をした。
あの時が無ければ今に繋がってはいない。
レンを見ると、私を優しげな目で見つめている。
「全て運命だったんだろうな」
そういうと私の頬に軽くキスをし、手を繋いで歩き出す。
周囲は日本と違い、思い切り私達を見ている。
いわゆるバカップルに思われていそうだ。
恥ずかしいけれど、こんな氷の貴公子なんて言葉とはほど遠い、優しくて素敵な人といられることが嬉しい。
「それにしてもレストランはどこ?」
メイン通りの店はディナータイムに入っている。
レストランの前に出来ているテーブル席で食事を楽しむ人も多いし、ブランドショップなども多くウィンドウショッピングの人達も行き交う。
「その前に寄りたいところがある。
付き合ってくれるか?」
「もちろん」
何か仕事で使う物でも買うのだろうか。
そして見えてきたのはこの街のシンボル、シュテファン大聖堂。
夜でもライトアップされていて、その存在感は桁違いだ。
今日は観光の出来ない日らしく、大聖堂の入り口には入れないよう立て札があった。
「こっちだ」
レンがシュテファン大聖堂に沿って歩き、どうやら関係者入り口らしきドアをノックした。
ドアが開き年配の男性が出てくると、レンを見てにこりと笑い私を見たので頭を下げる。
レンは彼と短く会話をすると、何故かレンは私を中に連れて行く。
もしかして今度ここでコンサートでもやるのだろうか。
年配の男性が中を歩きドアを開けると、そこはシュテファン大聖堂の中だった。
日中のようにステンドグラスから外の光が入ることは無いがいたるところにあるシャンデリアのような明かりが中を浮き上がらせ、私はその凄さにただ立ちすくむ。
「一時間だけここを貸し切らせて貰った」
びっくりしてレンを見ると、手を繋いだままゆっくりと歩き出した。
後ろに回り、左右に椅子が並びその真ん中にある通路をレンの手にひかれ歩く。
誰もいない大聖堂の中は大理石の上を歩く二人の靴音だけが響き、神聖な世界に圧倒される。