魔界の王子様は、可愛いものがお好き!

 ◇◆◇

「魔王様。アラン様は今、人間に子供に化けているようです」

 その後、魔界では、魔王城の玉座の前で、ヘビ男、いやメビウスが声を発していた。

 そして、その前に座るのは、黒く長い髪をした凛々しい顔つきの男。

 切れ長の瞳は、とても冷たく、その独特の雰囲気は、今にも押しつぶされそうなほど重かった。

 男の名は、ヴォルフ・ヴィクトール。
 そう、この魔界をすべる──魔王様だ。

「アランが、人間に?」

 そして、その手には、メビウスから渡された写真が一枚握られていた。

 そこ写っているのは、人形と猫を抱えて走る──赤毛の少年の姿。

「私の目に狂いはありません。あの波長は、間違いなくアラン様! なにより、シャルロッテが側にいました!」

 顔を氷で冷やしながら、メビウスが念押ししてそういえば、魔王は、その写真をじっくりと見つめたあと

「確かに……アランが、あの人形達を、他の者に触らせるはずがない。父親の俺ですら、触れさせようとはしなかったのだからな」

 鋭い視線をむけて、魔王が呟く。そして

「メビウス、皆に伝えろ。『アランは、この子供に化けている。捕まえて、私の前にひきずりだせ』とな」

「は! かしこまりました!」

 メビウスが、深く頭を下げて玉座の前からし退いた。

 すると、魔王は再び写真を見つめると

「アラン……人形遊びは、もう終わりだ」

 そう言って、写真をクジャリと握りつぶした。アランの──いや、ハヤトの映っている写真を。
 
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