魔界の王子様は、可愛いものがお好き!

嫌な予感

「花村さん、走って!」

 俺たちは、とっさに逃げようと方向を変えた。だけど、走る間もなく移動した魔族たちは、一瞬にして俺たちの前と後ろに回り込んだ。

「だめよ、逃げちゃー。君には、シャルロッテとカールを壊すのを、手伝ってもらうんだから!」

「は?」

 今なんて言った? シャルロッテさんとカールさんを壊すのを、手伝う?

 だけど、その後、カエル女がパチンと指を鳴らすと、俺たちの足元に黒い影が現れた。

 そしてそれは、ぐにゃりと柔らかくなると、あっという間に、俺の横にいた花村さんの足に巻き付いた。

「きゃッ!?」
「花村さん!!」

 影は、花村さんを地面の中に引きずりこもうとして、俺は慌てて花村さんの腕を掴んだ。

「ッ──花村さんは、関係ないだろ!」

「関係あるわよ。その子には人質になってもらうんだから」

「人質!?」

「威世くッ」

「ッわ!?」

 グラッと体勢が崩れる。

 花村さんは、一気に影の中に引きずり込まれて、俺は慌てて地面に手を付いて、それを食い止めた。

 何とか引き上げようと力を込める。
 だけど、影の力が強すぎて

(っ……だめだ、引きずり込まれるッ)

 片腕は、もう影の中に飲み込まれて、それでも、必死に花村さんを離さないよう、地面にへばりつく。

 もしかしたら、また、カラス(レイヴァン)がしらせて、アラン達が助けに来てくれるかもしれない。

 そう思って必死に耐えた。だけど

「カー! カー!」

「そうそう、アラン様のカラスなら、私達が捕まえたあとだから、助けは来ないわよ!」

「……ッ」

 カエル女の声に、じわりと冷や汗が流れた。少しだけ顔をあげれば、レイヴァンが鳥籠の中に捕まっていて

(レイヴァン……ッ)

 それを見て、助けが来ないことを確信した俺は、花村さんを助ける方法を必死になって考えた。

 だけど、繋がった手は、今にも離れそうで

(くッ……だめだ……っ)

 もう限界だった。
 腕が痺れて、指先も痛い。

 かろうじて繋がってるけど、このままじゃ、花村さんは一人で魔界に連れていかれる。

「ッ──ララ!!」

 瞬間、俺は、ララに呼びかけた。

 すると、腕輪の中から出てきたララは、俺の気持ちを察したのか、素早く花村さんの手に乗り移った。

 だけど、その直後

「うわっ!?」

 グイッ!!──と、後ろから、誰かに引っ張られた。

「少年、君がそこにいたら、影が閉じないではないか!」

 俺を引っ張り上げたのは、ヘビ男だった。

 一瞬あっけにとられて、ハッと我に返って、また影の方をみれば、そこにあった影は、もう、跡形もなく消えていた。

(花村さん、ララ──)

 でも、二人の心配をする間もなく、今度はカエル女が俺の前に立った。

「さて、ハヤトくんだったわね。あの子を返してほしかったら、私達のお願い、聞いてくれるわよね?」


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