「孤高の悪女」で名高い悪役令嬢のわたしは余命三か月のようなので、最期に(私の想い人の)皇太子の望みをかなえてあげる予定です。なにか文句ある?
「それと、きみがいないからカサンドラ・ヴァレンシュタインがやりたい放題だ。彼女、要領がいいからね。シュナイト侯爵夫人のお気に入りさ。その一方で、取り巻きとともに他の候補をいびっている」

 その彼の言葉に、なぜか心臓が震えた。

 彼がわたしを呼びつけた真の理由が、いま彼が言ったことである。

 そして、それこそがわたしがここに来た真の理由でもある。

「わかっているわ。カサンドラは、アポロニア・シュレンドルフを虐めているのでしょう? それをやめさせたいのね」
「カサンドラは宰相の娘だし、公爵家筆頭の家系だからね。始末に負えないよ。とにかく、カサンドラをどうにか出来るのは、『孤高の悪女』であるきみだけだ。だから……」
「不愉快だわ。わたしには関係ないんですもの。話ってそれだけ? だったら失礼するわ。フリッツ、行くわよ」

 コルネリウスが口を開くまでに彼に背を向け歩き始めた。

 心臓はまだ震えている。三か月の余命が、いますぐにでも尽きてしまいそうなほどに。

「アイ、なにかあったのか?」

 背中に彼の心配げな声があたった。

「その、大丈夫なのか?」
 
 さらにあたった。

「なにかあるわけないわ。それと、あなたも他人任せではなく、自分でどうにかすべきよ。あなたのことでこんなことになっているのだから。あなたの妻のことなのだから、あなたの好きな相手にすべきだわ」

 振り向きもせず、そんな可愛げのないことを投げ返していた。
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