「孤高の悪女」で名高い悪役令嬢のわたしは余命三か月のようなので、最期に(私の想い人の)皇太子の望みをかなえてあげる予定です。なにか文句ある?
「あらー、ずぶ濡れね。そんなところに突っ立っているから、フローラも通りにくかったのよね? そうでしょう、フローラ?」

 レディたちの笑い声がきこえてくる。

 じつにけたたましい。

 エリーザに腕をひっぱられながら、眉間に皺がよってしまった。

「泣かないでよ。フローラもわざとやったわけじゃないのよ。泣いたりなんかして。そんなにメンタルが弱くて皇太子妃になれると思う?」

 甲高くて甘ったるい声。

 だれの声かすぐにわかる。

「またですよ」

 エリーゼは、こちらを振り向くことなく言った。

「どうせカサンドラがアポロを虐めているんでしょう?」
「ええ。わたしもですが、アポロニアはもっとひどいのです。きっと、彼女自身の美しさのせいですね。わたしなんてこんなですから。その点では、ある意味助かっています」
「そうかもね」
「……」

 エリーゼに同意した。すると、彼女は口を閉ざしてしまった。

 広間の扉は開いたままになっている。

 長テーブル上に花瓶がいくつも置いてあり、皇太子妃候補たちがそれぞれ花を飾っている。

 花瓶に花を飾るなんてこと、皇太子妃や皇妃はしない。百歩譲って貴族の奥様ならするかもしれないけれど、皇太子妃や皇妃はするわけがない。というよりか、させてもらえない。

 それなのに、わざわざ花瓶に花を飾る練習をする必要がある?

 どうせ教養を身につける為なのでしょうけれど、わたしに言わせればムダでしかない。

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