「孤高の悪女」で名高い悪役令嬢のわたしは余命三か月のようなので、最期に(私の想い人の)皇太子の望みをかなえてあげる予定です。なにか文句ある?

わたし、死なないの?

「余命三か月」が花なのだったら、わたしは死なないわけで……。

「そうだよな。アイ。きみは、殺しても死なないだろう。なあ、フリッツ?」
「ええ、殿下。剣豪と呼ばれるおれでも、アイを斬殺や刺殺することは難しいです」

 コルネリウスとフリードリヒは、いったいわたしをなんだと思っているの?

「『孤高の悪女』は、どんな魔女よりもしぶといだろう。だが、おれにとってはそれがいいんだがな」
「まあ、殿下ったら」

 コルネリウスの言葉に、なぜかアポロニアが美貌を赤くしている。

 コルネリウスは、指先で鬢のあたりをかいてからお父様たちにわたしを妻に迎えたいと申し出た。

「やっとですか、殿下。遅いくらいです」
「そうですわ。アイも待ちくたびれていたのですよ」
「自慢の妹です。殿下といえど、泣かすようなことがあれば許しませんからね」

 お父様と継母と異父兄は、一応よろこんでいるふりをしている。

「ちょっと待ってよ。まだ、『イエス』と言っていないでしょう? 勝手に盛り上がらないでちょうだい。だいたい、好きでもない相手と政略結婚でもないのに結婚するなんておかしいでしょう? あっもしかして、わたしはダミー? 偽装結婚とか契約結婚とか、そういう類のもの? だけど、そんなことする意味ないわよね。だって、シュレンドルフ伯爵家は皇太子妃になるには申し分のない家系だし」

< 59 / 64 >

この作品をシェア

pagetop