闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 大学は夏休みに入っていたから、単位に悩まされることもなかった。
 それに、いつだって自由は小手毬に会いたい。たとえ眠りつづけている姿でも。


「面会時間内に行くのは、自由ですから」

 言い返す。すると、憐れむような表情を向けられる。


「いつ目覚めるかもわからないのに?」


 ……コイツ、喧嘩売ってるのか?


「いつ目覚めるかもしれないから、会いに行くんです」


 怒りの声に震える自由を、陸奥は面白そうに見つめている。


「千五百分の六」

「……は」
「交通事故で植物人間になった患者が意識を取り戻す確率。要するに二百五十人に一人しか助からない」


 ごくり。唾を飲み込む音が響く。
 尚も陸奥は続ける。


「俺が言いたいのは、奇跡に縋ることしかできない王子なんか邪魔なだけだってこと」
「なっ……」


 絶句する。
 ……お前それでも医者か?


 そう叫びたくても、病院の廊下で叫べるわけもない。
 憤怒の形相で相手を睨みつけることしかできない。
< 16 / 255 >

この作品をシェア

pagetop