闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 教会に参列者はひとりもいない。ふたりの結婚を見ていたのは年老いた牧師だけ。
 けれど、ふたりは満足だった。
 壁を飾る色とりどりのステンドグラスは花をモチーフにしており、ユリやバラだけでなく、ガーベラ(雛菊)スピラエア(小手毬)の花もある。小手毬の花だね、と自由が手毬に教えると、彼女は「しろいはななの、花言葉は“努力”……なんだか自由みたいなお花ね」と意外なことを口にした。
 太陽の柔らかな陽射しを受けて微笑む手毬を見ていると、交通事故で死にかけたあのときのことが嘘みたいだ。

「手毬が……小手毬だった頃、ジユウおにいちゃんのお嫁さんになる! って言ってくれたんだ」
「ジユウ、おにいちゃん?」
「俺たちははじめ、兄妹みたいな関係だったから。でも、いまは違う」
「いまは?」

 兄妹だと口にしたら、彼女を混乱させてしまうだろう。
 自由は優しい嘘をつきつづける。手毬の記憶が戻ってしまったら、すべてが水の泡になってしまうかもしれないけれど。
 いまは、まだ。

「ああ。いまの俺は、ひとりの女性として、手毬を愛しているよ」

 そう言って、彼は手毬を抱き締め、キスをする――……

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