闇堕ちしたエリート医師は一途に禁断の果実を希う
 目覚めてすぐに頭痛を訴えた小手毬だが、薬で症状が和らいだらしく、今は顔色も芳しい。白磁のように蒼褪めていた頬も桜色を帯び、かたく閉ざされていた唇も瑞々しさをとりもどした真っ赤な薔薇の花のように鮮やかだ。
 そしてなにより眼を瞠るのが、瞳孔の大きさが異なる左右の黒曜石のような瞳。
 事故の後遺症だろう……血腫による脳圧の亢進や脳の圧迫などで、小手毬の両眼は、瞳の大きさが異なっていた。
 だが、皮肉なことに、その神秘的な彼女の双眸が陸奥を強く惹きつけるのも事実。
 ひとまわり大きな右眼と、ちいさな左眼を覗き込むように、陸奥は尋ねる。

「痛いところはないか?」
「へいき」

 けろりとした表情で、小手毬は応える。
 脳波検査をはじめとした幾つもの精密検査が、明朝、行われる。

「痛かったらすぐに陸奥先生に言うんだぞ」

 腕時計を見て、名残惜しそうに自由はその場から動き出す。

「うん」
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