トランス・ブルー・ラブ  リアランとチェイサー
「いいか、何もなかった。
何もしなかった。
ここで休んで、酒を飲んだ。
それだけだ」

リアランは、感情を押さえて、
呪文を唱えるように言い続けた。

「私はこれで帰るっ!」

木の幹に手をあてて、なんとか立ち上がり、パーティ会場の近くにいた給仕に、
わかるように大きく手を振った。

その合図に反応して、
給仕がこちらに急いで向かってくる。

「馬車を・・裏門に急いでまわしてください。すぐに帰るので」

給仕にそう指示をして、
チェイサーには、背を向けたまま言った。

「あなたは遅れて、離宮に戻ればいい。
ブラントンの酒を受け取るのに、時間がかかった。
そう報告すればいいから」

そのままリアランは、給仕と一緒に裏門に向かった。

「リアラン様・・」
チェイサーは、立ちすくんでいた。

あれは・・
初めてだったのだろう・・・・
風に震える新緑の芽のような唇。

そして、手の平に感じた、あの柔らかな感触。

「これは事故・・」と言った。
どこかで・・聞いた・・
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