人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 イレーナが笑顔でヴァルクに目をやると、彼は満足そうに笑った。

(ああ、よかった。行き当たりばったりな対応だったけど、上手くいったみたい)

 まったく何の準備もなしで、いきなり敵だった相手と交渉をするのだ。
 途中ハラハラしたが、何とか話をつけることができた。
 完全に了承したという意味ではないが、それはこれから少しずつ信頼関係を結んでいけばいい。

「先生!」

 子どもたちは嬉しそうに声を上げながら司祭のまわりに集まった。
 彼らのこの笑顔を絶やすようなことは、誰も望んでいないはずだ。
 司祭の表情は初めて対面したときのように穏やかだった。

「そういえば先生、おばさんにお茶をかけたでしょ? ごめんなさいは?」

 突然子どものひとりが真面目な顔で彼に訊ねた。
 すると、もうひとりの子は腰に手を当てて責め立てる。

「先生がいつも言っているんだよ。悪いことをしたら謝らないとだめだって」

 子どもたちに詰め寄られて、司祭は悔しそうに歯噛みする。
 だが、子どもの手前、そうしないわけにはいかないだろう。
 彼はイレーナを半眼で見据え、抑揚のない声で言った。

「すまんかったな、おばさん」

 イレーナの顔面が硬直する。
 子どもたちのおばさん呼びを使ってわざわざ嫌味ったらしく言い放ったのだ。
 
(ほんっとに大人げない人!)


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