人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
イレーナの必死の訴えにヴァルクは戸惑っている。
彼の目にはイレーナがぼろぼろに映っているのだ。
それもそのはず、イレーナは鞭で打たれただけでなく、髪の毛も乱雑に切り落とされてしまっているのだから。
「お前をこんな目に遭わせた奴らを許せない」
「個人的な感情は、今は抑えてください。まず、首謀者を捕らえるのです」
「それならもう済んだ。スベイリ―侯爵は捕らえてある」
「いいえ。もうひとりいます」
「お前……」
ヴァルクがハッとしたような顔つきになったので、イレーナは彼もわかっているのだろうと思った。
口には出せない。
もっとも信頼する騎士が裏切ったのだから。
「傭兵たちは暴れたくてたまらないでしょう。あなたならきっと叩き伏せることができるでしょうが、血を流さずに解決できる方法を模索してください」
「イレーナ、一度戦が起こったらそう簡単に止めることは……」
「まだ起こっていません! どうか、少しは頭を使ってください!」
呆気にとられるヴァルクを見て、イレーナはもうどうにでもなれと思った。
皇帝相手にとんでもなく無礼な発言をしているのだ。
しかし、つい先ほどまで命を失うところだった。
今さら怖いものなどない。