人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 それだけではなく、ヴァルクのシャツが乱れて胸もとがさらされている。
 そしてそのまま密着しているのだ。
 イレーナは羞恥と混乱のあまり息を止めてしまった。 

(いけない落ち着いて。騒がず、狼狽えず……って、こんなの無理だわ!)

 イレーナはうんうん唸ってしまった。

「陛下……どうか、お許しください」

 荒い呼吸で訴えるも、相手は別の要求をしてきた。

「名前で呼べ」
「え? そのような失礼なことは……」
「言うことを聞かないとどうなるか」

 目の前で皇帝がにやりと笑う。
 イレーナは火刑に処される自分を想像して、ときめきから一気に恐怖に変わった。

「ヴァルクさま!」

 命乞いの叫びである。
 恐怖に慄いて泣きそうになっているイレーナに、ヴァルクは優しく微笑んで髪を撫でた。

「心配するな。無理強いはしない」
「へっ……?」

 それから先はとても優しかった。
 初夜は長い夜であると聞いたことはあったけれど、長いどころかイレーナは、一睡もさせてもらえなかったのである。

 その結果――。




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