人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

(な、なんだか恥ずかしいわ。でもこれで役目はしっかり果たせたはず……)

 これで懐妊さえすれば、もう皇帝は二度と部屋へ来ないだろう。
 少し残念な気もするが、イレーナのすべきことは皇帝の子を産むことだけ。
 そこに恋愛感情などない。

(意外とお話するのも楽しかったわ。けれど身分をわきまえなきゃいけないわね)

 イレーナはあらためて自分の立場を振り返る。
 そう、自分は皇帝の2番目の妻、つまり側妃なのである。
 正妃は別にいるのだから、子を産むこと以外で皇帝と関わってはいけないのだ。

(正妃さまのお立場ならきっと政務や外交のお話もできるのでしょうね)

 イレーナは両手を上げて伸びをする。

「ああ、残念だわ」
「どうかしましたか?」
「ううん、何でもないの」

 あとは美味しいものをたくさん食べて、宿ったはずの赤子のために栄養と睡眠をたっぷり()ることだ。
 そう、思っていた。

(あら? 何かしらこれは?)

 イレーナはドレスに着替えて鏡台(ドレッサー)の前に座ると首筋と胸もとにある痣を見つけて首を傾げた。




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