人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 皇帝の第一妻である正妃アンジェ。
 そして不貞行為の相手はこの国の騎士団のトップに君臨する、いわば皇帝の右腕のような男。
 さすがに正妃に手を出してはまずいのではないだろうか。
 このことを皇帝は知っているのだろうか。

 いや、知っていたらあの騎士団長は殺されているだろう。
 だから、あの男は「もし誰かに見られたら抹殺する」と言っていたのだ。

(だったらこんなとこでやめてよ!)

 などというイレーナの悲痛な叫びは誰にも聞かれてはならない。
 見なかったことにしよう。
 そう、自分は今この書庫でただ本を読んでいただけだ。

「あっ! イレーナさま、ここにいらっしゃったんですね。探しましたよ。どうかしましたか?」

 無邪気な顔で駆け寄るリアを見ると、イレーナは気が抜けそうになった。

「面白そうな本を見つけたんですよ。ほらこれ、若い令嬢のあいだですっごく流行っているんです」

 リアが手に持っている本は『禁断の花園』というタイトルだった。
 イレーナは額に手を当てて唸る。

「今それ……?」
「あ、やっぱり興味ないですか」

 なんという絶妙な、いや、絶望的なタイミング。



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