人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
イレーナの母はよく自国や近隣の国で貧しい人たちのためにスープやパンを配っていた。
もしかしたら、母が幼少のヴァルクと会っていたのではないか。
その可能性は十分にある。
しかし、イレーナとは接点がない。
「どうした? ぼうっとして」
「いいえ。何でもありませんわ」
イレーナは慌てて笑顔を向けた。
今考えても仕方のないことだと思った。
向かった先は帝国を敵視する教会。
その昔、皇帝との意見が合わなくなり独立したという話がある。
それ以来、同じ国なのに敵同士といういびつな関係である。
「ずいぶん古いな」
「ええ。長いあいだ補修されていないようですね」
教会はかなり老朽化が進んでおり、今にも崩れそうだった。
孤児院が併設されており、子どもが遊びまわっている。
そのうちの数人がこちらに気づいて駆け寄ってきた。
「ねえ、おばさん。お菓子ちょうだい」
「えっ!?」
イレーナは絶句した。
小さな男の子と女の子がさらに続ける。
「おばさん、綺麗な服着てるね。町の人でしょ?」
「どうしたの? おばさん。顔が変だよ」
イレーナは小さな怒りの気持ちを抑えながら、どうにか笑顔を向ける。
(落ち着いて。相手は子どもよ。そう、子どもからすれば私はおばさんよ。ええ、おばさんでいいわよ)
背後でヴァルクが声を殺して笑っているのをイレーナは察した。