人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 イレーナは少し考えて、帝国の噂話を思い出した。
 その昔、ドレグラン帝国と停戦協定を結んだ国がお互いにまだ腹の探り合いをしていた際、帝国側の皇帝は先に相手から出された茶を飲んだ。
 当然、家臣たちは驚愕し、止めようとしたが皇帝はすべて飲み干したという。

 敵同士であれば、いつ飲み物に毒が含まれているかわからない。
 話し合いの場で出された茶は決して飲まないのが通例だった。

 それ以来、皇帝が敵側から出された茶を飲み干すということは『お前を全面的に信用している』という意思表示となったらしい。

「今さら何だ? 帝国側(おまえたち)は100年近く我々を放置していたのだぞ!」
「だからこうして出向いたわけだ。これから仲良くしようぜって」
「ふざけるな! 我々の恨みはそう簡単に払拭できるものではない!」
「100年も経てば人も変わる。もちろん皇帝もな」

 イレーナはハラハラしている。
 ヴァルクは本当に戦だけに長けて生きてきたのだろう。
 交渉力があまりないようだ。
 これでは相手を納得させることはできないだろう。

「ひとつ、よろしいでしょうか?」


< 94 / 177 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop