人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 イレーナが口を挟むとヴァルクはにやりと笑って「いいぞ」と言った。

「勝手ですが、私は諸事情により家門を明かすことはできません」

(さすがに妃とは言えないわ)

 ヴァルクも皇族とは言ったが皇帝とは言っていない。

「私は異国から嫁いでまいりました。ゆえにこの国の状況をよく知りません。ですが、祖国や近隣国でもここと同じような村をいくらでも知っています」

 司祭はふんっと鼻を鳴らし、顔を背けた。
 イレーナは冷静に続ける。

「帝国とそちらの事情もよく知らないで生意気なことを申しますことをお許しください。しかし、どの国の子どもたちも皆、平等に未来を生きる権利があります。そこに大人の都合を押しつけるのはあまりに身勝手なことでございます」

 司祭は「このっ!」と怒りを露わにしたが、イレーナはすぐに続けた。

「何も今すぐ帝国と仲良くしろとは言いません。子どもたちが生きるための協定を結ぶのです」
「何を言っているのだ? この娘は」
「お聞きください。この村はとても人がまともに暮らせる状態ではありません。わずかな寄付で持ちこたえていても、おそらくこれ以上はもたないでしょう。どうぞ帝国の力をお借りください」
「それ以上言うな! この偽善者め!」

 司祭は自分の茶をイレーナに向かってぶっかけた。


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