今はまだ、折れた翼でも
破れかかったTシャツや短パンから、赤い傷が見える。



「……助けてくれて、ありがと」



そのまま立ち上がり、ドアのあるほうへ歩いて行った。

ガチャリと、ドアノブを回す音が耳に入る。



「だ、だめです!」



気がつけば、ドアノブにかけられた手に、右手を覆いかぶせていた。

びっくりしたように、こちら側を振り返り見下ろす。

心臓が、どきどき鳴っている。



「そんなにひどい怪我で、外に出るなんて……。どこに行くとしても、だ、だめです」



季節は夏のはずなのに、彼の手は、とても冷たかった。それは、氷みたいに。

私は扉の真ん中ただ一点だけを見つめる。



「たった一人、雨に打たれて……。傷にしみてしまいます。痛いです。身体も、心も」



手に、力を込めた。水が床に落ちる音がする。

怖いなんて感情はもう、どこにもなかった。



「……分かった。とりあえずは、出ていかねえから」



さっきまで冷たかった心は、ゆっくりと小さな火を取り戻していく。

私は、ドアノブから手を離した。



「よかった。……ありがとうございます」
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