偽る恋のはじめかた




人気のいない通路まで無言で歩く。なんて声を掛けようか迷っていると、黒須君が先に口を開いた。



「今朝は、いきなり変なこと言ってすみません。好きな人が自分の気持ちに気付いたと思ったら、焦って口走りました」

「あぁ、うん、・・・・・・えっ?」


———好きな人って言った?
黒須君が私を好きってこと?
いやいや、それはありえない。

頭の中で自問自答を繰り返した。



「椎名さん、その顔は困ってます?俺が好きって言ったら・・・・・・いや?」

「いや、その・・・・・・」


黒須君の質問に答えられなかった。自分でも分からなかったんだ。黒須君に好意を寄せられるなんて、夢にも思わなかったから。


「そんな困った顔しないで下さい。困らせたいわけじゃなくて、男として椎名さんを幸せにしたいんすけどね」

「・・・・・・黒須君だったら、言い寄ってくる子がたくさんいるでしょ」

「まぁ、たくさんいますけど。その言い寄ってくる子より、椎名さんがいいと思っちゃうんだもん。・・・・・・どうしたらいい?」


言い寄ってくることを否定しないんかい!と心の中で突っ込みを入れつつ、儚げに笑う彼の表情に惹きつけられてしまう。

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