偽る恋のはじめかた
「私も話があってさ、
実は、桐生課長を狙おうと思ってるんだよね」
お酒が入ったグラスをくるくると回しながら、あっけらかんと告げたその言葉は、私が一番聞きたくない言葉だった。
私が桐生課長に恋心を抱いてることを彼女は知らない。なにを悩んでいたのかも知らない梨花は、全く悪くない。
悪くない、悪くないけど———・・・・・・。
先に言われてしまった私は、なにも言えなくなってしまった。
ショックを受けて言葉が出ない私をよそに、彼女はおつまみに頼んだ唐揚げを口に頬張りながら「桐生課長って、優良物件だと思うんだよね〜」と、話を続けている。
私にとっては、言葉が出なくなる程の衝撃だったけど、梨花にとっては食べながら話す、ただの近況報告に過ぎなかった。