偽る恋のはじめかた




「・・・・・・椎名さん、会社の時と印象違ってなんか緊張しちゃうな」


「そ、そうですか?えっと、えっと、
ワンピースなのは気合い入ってるとかじゃなくて、えっと、着る服がなくて・・・・・・」


ワンピースを着て気合い入ってると思われたかな?

急に恥ずかしくなり、あたふたしながら先手で予防線を張った。


「ワンピース、似合ってるよ?」


そう言って優しく微笑むので、つられて私も笑顔になる。

彼の言葉に「ワンピース着てきてよかった」と心の中でつぶやいた。



「うん、よく似合ってて、かわいいよ」


「かっ・・・・・・?」



———かわいい?!
まさか、かわいいと言われるなんて思っていなかったので、わかりやすく動揺してしまう。


「あっ、か、かっ、かわ、その、今のは・・・・・・えっと」


私が動揺する様子を見た桐生課長もなぜか動揺し始めた。コホンッと咳払いをして言葉を続ける。


「かわいいと思ったから、言ったんだけど・・・・・・
これってセクハラ?」


「・・・・・・かもですね」


セクハラなんて、なりませんよ。
発した言葉とは正反対のことを、心の中で返事をした。


「えぇ!これもセクハラかあ、
今度はかわいいと思っても我慢しなきゃなぁ」


私の天邪鬼な返事を本気にして、一人で頭を悩ませていた。

そんな彼が愛おしくて、会ってから5分もしない間に、私の心は満たされてしまう。



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