偽る恋のはじめかた
⋆⸜꙳⸝⋆
待ち合わせに指定された場所に着くと、桐生課長はすでに到着していた。
黒のスキニーデニムに、真っ白のラフな長袖のTシャツ。シンプルなコーディネートが桐生課長のスタイルの良さを際立たせていて、遠目から見ても目を惹く。
かっこいい・・・・・・。
ぽーっと見惚れて私の足は止まってしまった。
「あっ、椎名さーん」
キョロキョロと辺りを見渡して、私の姿を見つけると、片手を大きく振って迎えてくれた。
「子供じゃないんだから・・・・・・」
そう呟いたものの、内心はとても嬉しかった。
私を見つけた瞬間、笑顔になった彼の瞳は私だけに向けられたものだと思ったから。
「すみません。待たせちゃいましたか?」
「今きたところだよ。休みの日に悪かったね」
会社で見る桐生課長とは、印象が違って変に緊張してしまう。ドキドキと心臓の鼓動も早くなる。
私服姿も、カッコいい・・・・・・。
そういえば、今日はなんで呼ばれたんだろう?
浮かれて忘れていたが、今日の要件を聞いていなかった。
「・・・・・今日はどうしたんですか?」
「えっと・・・・・・、プレゼントしたいんだけど、選んでもらえないかな?」
少し申し訳なさそうな顔をして、ぎこちない笑顔を浮かべた。
その表情を見て、全てを悟った。
あぁ、梨花へのプレゼントか。
少しでも浮かれてしまった自分が恥ずかしい。
梨花へ渡すプレゼントを選ぶ付き添い人。
私の役目がわかると、胸がぎゅっと押しつぶされそうになった。
胸の苦しさを隠すように、無理やり笑顔を浮かべてみせた。
「・・・・・・わかりました。私が女子ウケ抜群のものを選びますよ」
「えっ?・・・・・・あぁ、ありがとう」
なぜか一瞬戸惑った様子の彼は「じゃぁ、行こうか」と足を進めて歩き出した。
返事をする時、上手に笑えていただろうか。
自分の気持ちは心の奥底にしまって、桐生課長の恋を応援しようと決めたはずなのに、心はちゃんと傷ついて痛かった。