偽る恋のはじめかた
桐生課長が連れてきてくれたお店は、クラシックが流れていて、上品な雰囲気に少し緊張してしまう。
「予約していた、桐生です」
「お待ちしておりました。ご来店ありがとうございます。こちらへどうぞ」
お洒落な店内を通り席へと案内される。
メニュー表を広げて、今日のオススメの品を丁寧に説明してくれている。店員さんには申し訳ないけれど、私の頭には一切入ってこなかった。
・・・・・・予約?!
桐生課長が予約してくれてたってこと?!
そう、店内に入ってすぐに発した桐生課長の言葉の方が頭を支配していて、店員さんの説明が入ってこないのだ。
もしかして・・・・・・今日のために事前にお店を調べて予約してくれたのかな、と考えたら嬉しくて舞い上がりそうになる。
桐生課長にバレないように、気持ちを抑えて冷静に保とうと必死だった。
「どうしようかな〜。椎名さん、好きなもの頼んでね」
「・・・・・・桐生課長、このお店って予約してくれたんですか?」
「えっ?!
バレちゃった・・・・・・?」
「いや、バレるもなにも、店員さんに『予約してた桐生です』って言ってたじゃないですか」
「あ—、そうだな。
・・・・・・そこでバレてしまうのか」
肩を落として落胆している彼の様子から、予約してたことは秘密にしたかったのかな、と感じ取れた。
だったらもっと上手くやってよ、と心の中で反論してみるけど、私のために予約してくれた事実が嬉しくてたまらない。