偽る恋のはじめかた
「・・・・・・いいと思いますよ」
私は、ただの付き添い人。
プレゼントを渡すのは桐生課長なんだから、
私が選んだものよりも彼が選んだ物の方が、梨花もきっと喜ぶはずだ。
私の掛けた言葉に、より一層嬉しそうに笑った。
真剣にプレゼントを選んでもらえて、桐生課長のこんなに嬉しそうな表情を引き出せる梨花が羨ましい。心の中で嫉妬心がうごめく。
「会計してくるから、少し待ってて?」
梨花へプレゼントするピアスを持って、レジへと向かう桐生課長の背中を見送った。
もうこれ以上傷つきたくなくて、この場から逃げ出したい衝動に駆られた。
そんな私のことなんて全く知らない桐生課長は、可愛くラッピングされた小さな紙袋をもって、小走りで戻ってきた。満足そうに笑っている彼を直視できずに、思わず目を伏せてしまう。
「・・・・・・疲れた?大丈夫?」
俯いた私の顔色を窺うように、覗き込んでくる。
その優しさに罪悪感を覚える。私情で顔を伏せてしまったことを反省した。
「だ、大丈夫です」
「・・・・・・お腹空いてる?
近くに美味しいパスタ屋さんあるんだけど、食べて行かない?椎名さんパスタ好きでしょ?」
「・・・・・・お腹空きました」
桐生課長の提案で、私達はランチを食べに行くことになった。
「椎名さんパスタ好きでしょ?」
この言葉が何より嬉しかった。
この間、私が好きだと話したことを覚えてくれたことが嬉しくて、口元が自然と緩んでしまう。