偽る恋のはじめかた
「どこがいいんですか?」
「いや、どこって・・・・・・」
「顔ですか?顔なら俺も負けてないと思いますけど?」
「そ、れは・・・・・・」
落ちた書類やファイルを拾いながら、周りに聞こえないようにコソコソと話す。小声で話すので自然と距離も近くなる。
「負け戦確定の恋なんかより、勝ち確定の恋、
・・・・・・俺としない?」
「へっ?」
甘い香りがふわっと鼻の奥を刺激する、と同時に耳元で吐息と共に甘く囁かれた。耳に感じる吐息と予想していなかった言葉に驚いて、思わず変な声が出てしまった。
驚くと同時に始業開始の時間が訪れた。
何もなかったかのように、平気な顔で仕事に戻る黒須君に目を奪われて、その場にしばらく固まってしまった。
黒須君がどういう意味で言ったのか、全く分からなかった。黒須君と私の間に、好きとか男女の関係の雰囲気など今までなかった。
いきなり告白みたいなことを言われても、戸惑うことしかできなかった。