能無し姫は執着系王太子殿下の寵妃になりまして。
第1章

能無し姫



「アナベル様、アール様とオリヴィア様がおかえりになりましたよ」

「えっ本当!? お迎えに行かなきゃね」


 よく晴れた昼下がり、私の専属侍女のアニーがそう伝えに来てくれた。私は今までしていた刺繍を止めて刺繍箱に入れると彼女に着替えの手伝いを頼む。

 私、アナベル・カスティランは獣人の国カスティラン帝国の第二皇女でオオカミの獣人である。茶色とピンクのグラデーションの髪に目はピンク色で両親をミックスした容姿だからと美姫と呼ばれた。だが、聖魔力の強い母がいるのに魔力を持たず産まれたため今じゃ能無し姫だ。


「アナベルー!」

「あっ、アール! お姉様!」


 自分の宮を出て宮殿へ向かい歩いていれば、廊下の向こうから彼らが歩いてくるのが見えた。


「……おかえりなさいませ。お姉様、アール」


 私が淑女の礼をすると「もう、アナったら」とお姉様が笑う。アールは「ただいま、アナ」と微笑む。

 お姉様とアールは、聖魔法及び治癒魔法が使える。二人揃えば偉大な治癒魔法士の母に超えるほどの力があるため重宝されていて遠征に頻繁に行っているのだ。今日はひと月ぶりに帰ってきた。

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