夕陽を映すあなたの瞳
「うわー、広い!明るい!」

窓から射し込む陽の光に目を細めながら、心は興奮して窓から外を見る。

「凄い景色ねー。あ、海が見える!何階なの?ここ」

昴が25階と答えると、心は目を丸くする。

「そんなに高いんだ!酸素とか薄くないの?」
「いや、多分大丈夫」

真顔で答える自分に、昴は苦笑いする。

(なんか俺、久住の独特さにだんだん麻痺してきたな)

『心ワールド』に慣れ、もはや多少のことでは動じない。

「久住、コーヒー飲むか?アイスティーもあるけど」
「あ、じゃあアイスティーお願いします!」

オッケーと昴はグラスに注ぎ、ダイニングテーブルに置く。

だが、心は窓に張り付いたままだ。

「久住、高い所平気なのか?」
「うん。え、伊吹くんは?まさか苦手なんてことは…」

心が振り返ると、昴は苦虫を噛み潰したような顔で頷く。

「えー?!じゃあ、なんでここに住んでるの?」
「いや、だってさ。LAに1年赴任してて急に帰国が決まった時、間取り図と内装の写真だけ見てここに決めたんだよ。いざ入居しようとして、あれ?2階だっけ5階だっけ?ってよくよく見たら、まさかの25階で…」

はいー?!と心はうわずった声で驚く。

「そんな人いるー?えー、信じられない」
「いやー、俺もびっくりした」
「伊吹くん、完璧な優等生ってイメージだったのに。なんかガッカリ…」

あからさまにため息をつくと、昴も心に抗議する。

「それを言うなら久住だって。俺、高校生の時、久住っておとなしくて真面目で、控えめな女の子だなって思ってたのに」
「あー、よく言われる。私、黙ってるとおとなしく見えるらしいのよね。で、話してみたら、えー?!そんなこと言う子だったんだー!って驚かれる。普通なのに…ねえ?」

いや、それは同意出来ないな…と、昴はこっそり首を振る。

「あと、ジーンズ履いてるのも驚かれたりする。スカートとワンピースしか着ないイメージだったーとか」
「え、違うのか?」
「ぜーんぜん。いつもジーンズとスニーカーだよ。ほら、今日だってそうだし」
「いや、だから俺もさっき、珍しいなって思った。この間レストランに下見に行った時は、違っただろ?いつもああいう感じかと」

心は笑って手を振る。

「違う違う!この間の方が珍しいの。ほら、ホテルのレストランだったからね。私がスカート履くなんて1年で2回くらいかな?伊吹くん、だいぶレアな私に出くわしたわね」

はあ…と、昴は気の抜けた返事をした。
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