タロくんとハナちゃん

太郎丸の姫

｢━━━━華子、これ！ありがとう！｣

次の日。
太朗と俊彦と共に講義室に現れた華子に、水羅が指輪を返してきた。

｢あ…はい｣
手の平に置かれて、華子は両手で包み込んで微笑んだ。
(良かった……)

｢ねぇ！｣
そんな華子を切なそうに見て、太朗が水羅に向き直った。

｢は、はい！｣

｢もう二度と、ハナちゃんから私物を借りようなんてしないでね。
僕のハナちゃんを傷つけるようなことしないで｣

｢え？あ、す、すみません！！｣
太朗の鋭い視線に、ペコペコ頭を下げ謝る。

｢………
ハーナちゃん、行こ？｣
華子に微笑み、手を引く太朗。

｢はい。
じゃ、じゃあ…水羅ちゃん、また｣
｢う、うん｣

席に向かう太朗達を、羨ましそうにジッと見つめる水羅。
とにかく、ラブラブな太朗と華子。

華子をひたすら見つめる太朗と、恥ずかしそうにしながらも太朗を見つめている華子。

内緒話をしながら、クスクス笑っている姿。
頬を突っついてちょっかいをかける太朗を、上目遣いで見る華子。
講義中も、二人声をかけ合いながら、仲良くメモを取っている。

｢いいなぁ｣
つい、ポロッと本音が出てきていた。



水羅は大学が終わると、街を一人で歩いていた。

太朗の好きそうな服を着て(華子との会話の中で探りをいれた)耳には、自分で作ったマーガレットモチーフのピアスをつけ“あの”ペアリングをはめて。

最近の水羅の楽しみだ。

太朗の恋人気分があじわえるから。

ライオンの指輪も、恋人気分をあじわいたくて作りつけていた。
しかしたまたま同級生に、ライオンの指輪を見られ｢何処で売ってるの？｣と聞かれたのだ。

自分で作ったなんて知られるわけにはいかない。
太朗に知られる可能性もあるから。

だから“友達の知り合いが作ったらしい。だから、誰が作ったかわからない”と、架空の人物を作りあげたのだ。

元々は水羅が作ったライオンの指輪が原因なのだが、噂だけが一人歩きし、いつの間にかライオンの指輪が“太郎丸の女”だと出回るようになったのだ。



｢━━━━君、タロマルの女？｣

コーヒーを片手に街を歩いていると、突然数人の男性達に話しかけられた。

｢え？｣

｢花のピアスと、左手の薬指に紫の指輪。
絶対そうだ！
へぇー！なんか、思ってた感じと違うけど…
一人？｣

｢え？は、はい｣

｢遊ぼうよ～！｣