卒業証書は渡せない

16.忍び寄る影

 それから何もない日がしばらく続いて。秋が来て、文化祭、体育祭があって、冬になって。奈緒と弘樹はクラスみんなが羨むくらいお似合いで。相変わらず、私には彼氏がいないけど、周りの同じような子は『温めてくれる彼氏がほしい!』なんて言ってるけど。私は奈緒と弘樹を見ているだけで、体は寒くても心はポカポカだった。

 奈緒がふわっと笑うから。弘樹も大きく構えるから。右と左のバランスが良くて、いつまで見てても飽きないくらい。ちなみに私と牧原君は、あれから何の進展もなし。

「そうだ奈緒、クリスマスは予定あるんでしょ?」

 今年のクリスマスは、運良く土曜日だ。次の日は休みなので時間も気にしなくていい。ただ、いくら奈緒の父親が弘樹を認めているとはいえ、夜遅くまで帰らないのは許さないだろうけど。
 奈緒の表情が明るくなったので、何かあるんだな、と思った。

「私を呼んじゃダメだよ?」
「うん……わかってるよ。だけど、違う日に遊びに行こうね? そうだ、ケーキバイキング行こうよ!」

 ダイエット中なので甘いものは控えたいけど、奈緒からのそんな甘い誘いは断れない私です。


「入院?」

 弘樹のクラブの先輩・章人が骨折で入院したらしい。

「前から変なフォームでやってて、そーだ、前に保健室で見ただろ? しょっちゅう怪我して、だいぶ弱ってたんだって」

 学校全体ではバレー部は強くないけど、章人個人で見れば良い選手だというのは噂に聞いていた。弘樹も昔、もちろん今も、章人から教えてもらったことも多いらしい。ただ章人はいつも地面すれすれでボールを受けていて危ないので、それだけは倣っていない。

「それで、それと弘樹と関係あるの?」
「いや、そんな大事なことはないけど、完治まで3カ月くらいかかるらしくて、来年どーなんのかな、って……うちの部、2年いないんだよ」

 章人は現在、高校3年。今は、12月中旬。

「先輩、キャプテンやってっから……。見舞行った先生に『来年のキャプテンは木良に任す』って言ったらしい」
「えーっ」

 今現在は3年生は何人かいるから大丈夫だけど、卒業すると今の1年生が一番上になる、後輩たちを見るのはお前らだ、っていう話を顧問の先生がしていた。中学の頃から章人に面倒見てもらっていた弘樹が、来年度キャプテン候補らしい。俺で大丈夫なのか、クラブもやりたいけどそれ以上に奈緒とも遊びたい。バレーはもちろん好きだけど、高校で引退したらもう続けるつもりはない。

 そんな話を奈緒と弘樹がしているのを、私は最初はちゃんと聞いていたけど。教室の窓からこっちを見ている人に気づいて、ずっと気になっていた。

 こないだ目が合って逃げられた、あの女の子。

(誰だろう……何してるんだろう)

「ねぇ、2人とも、意識しないで見てほしいんだけど、廊下からこっち見てる女の子、知ってる?」
「え?」
「なに?」

 女の子は友達と廊下でしゃべっていて、動く気配はない。その間に、彼女に背を向けていた2人に振り返ってもらった。

「遊園地行ったころにも廊下にいたんだよ。目が合ってなぜか逃げたんだけど」
「誰か知らねーけど、ここにいるってことは、1年?」
「私も見たことないよ」
「気になるなー」

 3人で廊下を見ていたら、女の子に気づかれた。そして、やっぱり、彼女はびっくりした顔をして、友達と一緒に姿を消した。
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