卒業証書は渡せない
第4章 ~高校2年生~

23.クラス替え

「おはようー夕菜」

 高校2年の始業式の朝、いつものように奈緒と登校した。

 本当なら嬉しいはずなのに。
 久々の学校が、勉強以外は楽しみなはずなのに。

 クラス替えも楽しみなはずなのに、今日の私は元気にはなれなかった。

「おはよ……新学期だね」
「──大丈夫?」

 それはもちろん、今日に始まったことではない。
 年度末に牧原君がアメリカに行ってしまってから、どんな良いことがあっても私は元気にはなれなかった。奈緒は気を遣って遊びに誘ってくれたけど、申し訳ないけど元には戻れない。

「うん……たぶんね」

 だけど、奈緒に心配はかけたくなくて。
 いつもの元気な私らしく、新学年っぽい話題を振ってみた。

「クラス替え、どうなってるかな」
「今までずーっと同じクラスだったもんね。また一緒が良いなぁ。弘樹も一緒だといいのになぁ」
「……噂をすれば」

 私と奈緒が歩く少し前の交差点で、弘樹が壁にもたれて何かの本を読んでいた。

「弘樹、おはよう。それ何の本?」
「おーっす……これ? 京都のガイドブック」
「ガイドブック? なんで?」

 私がそう聞くと、弘樹はものすごく笑顔になった。

「今年は修学旅行があるからな! どこ回ろうか考えてた」

 そう言って学校へ向かいながら、弘樹はガイドブックを奈緒にも見せている。高校2年で修学旅行があって京都に行くのは前から聞いていたけど。

「違うクラスだったらどうするの?」

 まだクラス発表も見ていないのに。
 楽しそうに話す弘樹の後ろについていると、また弘樹は笑顔で振り返った。

「クラス違っても、自由時間は自由なんだって」

 春休みの間に気になって、弘樹は修学旅行の自由時間の過ごし方を先輩の章人に聞いたらしい。クラスでグループを作って予定を提出、という学校も多いけど、うちの学校はとにかく自由らしくて。

 学校までの道のりで、弘樹と奈緒はずっと京都の予定を立てていた。わかってると思うけど、私を忘れないでね……?

 やがて学校に到着して、クラス発表は先生が正門でプリントを配っていた。

「先生、俺、何組?」

 弘樹はそう言いながらプリントをもらい──

「ええっ? 俺、奈緒……は? うわー」
「なんで? 離れちゃった!」
「……見事に」

 今年は、3人とも違うクラスでした。
 今までずっと同じクラスだった方が珍しいけど。

 それが良かったのか悪かったのかは私にはわからない。奈緒と弘樹が仲良くしているのはあまり見たくなかったけど、奈緒が寂しそうにしているのも見たくなくて。違うクラスだからあまり見ないだろうけど、それはそれで心配で。

 弘樹は浮気──しないだろうとは思うけど、やっぱりちょっと気になって。して欲しくもあって。でも嫌で。

「あ、でも奈緒、隣のクラスだから体育は一緒だよ」
「いつでも遊びに来いよ! 俺も行くから!」

 そんな挨拶をしながら私たち3人は違うクラスへ。
 こうなって欲しくなかったと言えば嘘になるけど、知ってる人があまりいない教室に入るのはちょっと勇気がいった。
 やっぱり、3人同じクラスが良かったな……。


 悪い予感は、この頃からしてたんだ。
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