卒業証書は渡せない

55.解・禁・日!

 3学期始業式。
 いつものように登校して、クラスメイトに挨拶して。

「おっはよう! 今年もよろしくね、夕菜!」
「うん。よろしく!」

 っていう私の返事、おかしかったかな?
 琴未が珍しそうに、私を見ていた。

「なに? 何かおかしい?」
「ううん……おかしくはないけど……夕菜ってこんなに元気だったっけ? と思って」

 いつもより元気だった、かもしれない。
 特に意識したつもりはないけど。

「さては、冬休みに何か良いことあった?」
「え? ないよ。お正月以外は、ずっと勉強してたし。あ、そういえば、牧原君からエアメールが届いて、初詣で弘樹に会ったよ。でも、何もないし」

 お母さんは、弘樹との関係を何回か聞いてきたけど、本当に関係はただのクラスメイト。もしかしたら、親友。
 間違っても、彼氏──ではない。
 そうなりたいけど、ならない。私にはそんなことできないし、弘樹の心の中にも、奈緒は残ってる。

「あとちょっとで卒業だしね。今年は笑って過ごすよ!」
「……そうだね。早速来週は、センター試験だけどね」


 それから受験当日までは、本当に、あっという間だった。
 授業はもう終わってるから、学校に行く用事はほとんどないけど、先生に質問したくて。

 受験は、もちろん、受ける学校によって日程が違うけど。
 受験方法がいくつもあって、いくつ受けたかわからなくなったけど。
 数年後にある就職がまた大変だろうけど、受験するのはたぶんこれが最後。試験の連続で嫌になったけど、いつもと違う行動をちょっとだけ楽しんだ。

 遠くの高校に行った友達と、電車で偶然出会ったり。
 フラッと寄ったコンビニで、斎鹿章人に出会ったり。

「あいつ、元気にしてる?」
「はい。だいぶ元通りになりました。でも……まだ辛そうです」
「そうか……。あいつのこと、頼むよ」

 笑顔でそう言われたけど。
 私も、はい、って言ってしまったけど。
 受験シーズンに突入してから、弘樹とはほとんど話していない。というか、学校にあんまり行ってない。

 だからもちろん、琴未にも会ってない……。
 みんなに早く会いたいな。
 もちろん、毎日受験で学校に行く暇がない! っていう状況ではなかったけど、試験が多い時期は学校に行かなくてもいいことになっていて。自宅学習を選んだ私。

 メールも電話も、しばらく誰ともしないことにしていて。

 やっと、解・禁・日!
 久々の学校はなんとなく懐かしくて、いつもよりけっこう早めに登校した。のは、私だけじゃなかったらしい。

「おはよう夕菜! 終わったね!」
「うん、疲れたよぉ……」

 琴未と受験最終日が同じで、久々に顔を合わせて。
 私は数日前に、琴未もしばらく前に、最初に受けたところから合否通知が届いたらしくて。

 結果は、聞かなくてもわかったよ。
 笑顔だったから。

「留年にならなくて良かったね」
「うん。あ、そうだ、木良はどうだろう? 夕菜、聞いた?」
「ううん。長らく喋ってなくて」

 噂をすればなんとやらで。
 私と琴未の姿を見つけて、やって来た。

「おまえらも終わったんだな。あとは卒業だけか」
「ねぇ、弘樹は……どうだった?」
「何が? ああ──俺が落ちるわけねーだろ。奈緒にも、報告してきたよ」

 弘樹が笑顔で言うから。
 私やっぱり、本当のことは言えないよ。
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