卒業証書は渡せない

57.もう来ない日々

 教室に戻ってから、改めて担任からの挨拶があって。
 会場では代表が卒業証書をもらったから、今度は個人に渡されて。

 卒業後、進学と就職に分かれるけど、どっちも頑張れ、とか。
 卒業アルバムには卒業式の写真も入るから、後日郵送する、とか。
 そして、本当に、最後の挨拶をして、解散になった。

 でも、みんな、なかなか帰らないのは、名残惜しいから?

「他のクラスの子とも写真撮ろうよ!」

 琴未に誘われて、私も一緒に他のクラスへ。
 友達だけじゃなくて、先生にも入ってもらって。

「そうだ、木良にも入ってもらおうよ」
「え……、う、うん」
「卒業式なんだから、細かいこと気にしない!」

 そうやって、琴未に引っ張られて、弘樹を探して。
 弘樹は教室でクラスメイトと話していて、すぐに見つかった。

「俺、あんまり写真好きじゃないんだよな……」
「良いから良いから、ほら、並んで! 撮るよ!」

 って、写ったのは私と弘樹だけって、なんでですか。


 気付けば、他の生徒はみんな帰ってしまってて。
 私と琴未も、荷物を持って正門前に立っていた。

「じゃあね……またメールするね!」
「うん。元気でね!」

 道が反対方向だから、正門前から一人になった。
 でも、私は1人になりたかった。行きたい場所があった。
 今日は特別な日──奈緒の命日だから。


「奈緒……卒業したよ……」

 既に誰かが参った後らしく、綺麗な花が供えられていた。線香もまだ、煙をたてていた。

「あと1年だったのに……一緒に卒業したかった……」

 もし、地震がなかったら。
 もし、クラブがなかったら。
 もし、電柱がなかったら。

 今も奈緒は元気にしていたかもしれないのに。
 毎日そんなことを考えた。

「奈緒……どうして……」

 卒業式では泣けなかったのに、今は涙が止まらなかった。

 奈緒は、いまどうしてるのかな。
 雲の上で、元気にしてるのかな。
 私は……卒業して、大学にも行くけど、奈緒がいないって、寂しいよ……。

 ジャリ──。

 振り返ると、そこには弘樹がいて。
 奈緒……交代するね。またね。

 黙って立ちあがって、そのまま帰ろうとしたけど。

「──夕菜、待って。話があるから、待ってて」

 弘樹にそう言われて、少し離れて待った。

 弘樹はじっと墓石を見つめていた。黙って、じっと。
 たまに近くを通る車の音が聞こえても、木から飛び立つカラスの声が聞こえても、弘樹はずっと墓石を見つめていた。

 奈緒と喋ってるのかな。
 絶対、そうだよね。私だって、そうだった。
 私も長かったけど、弘樹もけっこう、長く話してた。

 もし、奈緒が今も生きていたら……。
 絶対、このあと2人で遊びに行ったはず。
 今日が無理でも、春休みの間に旅行に行ったはず。
 私も、誘われてたかもしれない。

 でもそんな日は、もう来ることがなくて。
 あんなに見たくなかった楽しそうな2人を、今はこんなに見たいなんて──ダメだ、また、泣きそうだよ。
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