麗しの香道家は、傷心令嬢を甘く溺愛して離さない。
第1章

◇プロローグ


 
 豊かな緑から凛とした空気を感じる神殿で、雅楽が流れているのを聞きながら巫女が神酒を注いでいるのを見ていた。今から行われるのは、三々九度。三々九度とは大中小の三つの盃を使用して新郎新婦がお酒を酌み交わす儀式のことだ。

 小は新郎新婦の過去を表現して先祖への感謝の意味を持っており、中は新郎新婦の現在を表現していてこれから夫婦で力を合わせて頑張っていきますよという意味。三つ目が、新郎新婦の未来を表現してる……って聞いた気がする。


英那(えな)ちゃん、……っ?」

「あ、すみません」


 三々九度の意味なんて考えていれば、もう順番が来ていたみたいで巫女が注いでくれたお酒を飲んだ。

 三々九度が終わり、私は横目で旦那様になる彼を横目で見る。何度見てもかっこいい彼は、今をときめく佐山(さやま)香道家(こうどうか)なのだから。


「――幸せにするよ、英那ちゃん」



 なぜこんな素敵な人が、私の旦那様になったのか……それは、一年前に遡る。





 
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