麗しの香道家は、傷心令嬢を甘く溺愛して離さない。
◇幸せの崩壊。
私は、左手の薬指に輝いている指輪を眺めながら顔は緩みきっていた。
「……英那、気持ち悪いぞ」
「えっ、お兄ちゃん。いつから……」
そんな顔を覗き込んでいたのは兄だ。
「ずっと前からいたよ。まぁ、浮かれ切るのも仕方ないと思うけど……ほどほどにしろよ。どこに行ってもニヤニヤニヤニヤとされたら恥ずかしいだろ。一応は、老舗呉服屋の娘なんだから」
「はいはい。わかってますよ〜! 一応、呉服屋の娘ですからね」
テレビでも特集が組まれるほどの憧れのベリが丘駅近くで櫻坂エリアに本店を構えている老舗呉服屋・サカキ。そこの社長の娘である私は榊原英那。
大学を卒業し、今は二十五歳。都内の服飾系を扱う会社に勤務していたが、最近結婚が決まって三年間働いていた会社を退職し今は結婚式までは家で過ごしている。